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株式会社 大香

終わって一段落。
あちこちで葉桜がみずみずしく輝き始める。
その頃にはほかの草木も目を覚まして、もう春も爛熟寸前。

畑では、豌豆が花をつけて、やわらかい莢をぶら下げ始める。
おお、豆の春。
四月、五月は春の恵みをたっぷり堪能できる時季。
若い莢や緑の若い種実が出回って、毎日のように豆に追われる台所だ。

趣味で畑をやっている友人知人親類がいるので、時折り季節の野菜をもらうことがある。
これ以上の贅沢はない。
が、畑の作物とは強力なものだ。
ふだんスーパーで大切に買ってくるサヤエンドウなどは、手のひらに載る小さな袋にそ~っと一列並んでいるだけ。
それが、畑直送のサヤエンドウは、ドド~ンとレジ袋にパンパンに入って送られてくる。桁が違う。
ありがたき幸せ哉。
莢のスジ取りにも精が出るというものだ。

大好物のグリーンピースも、莢からはずされたコロコロのが、半透明のビニール袋にこれまた溢れんばかり。
いくら好きでもこんなに一人で食べられないよ。
で、お隣近所で分けたりするけど、それでも余るので冷凍して隠匿。
これでしばらくグリーンピースたっぷり食べられるな。安心安心。

とホッとしたのもつかの間、蚕豆到着。
この厚かましいほど大きな莢に、大切に包まれた薄緑色の種実。
『和漢三才図会』の蚕豆の項にも「塩を加えると味が良くなる」と書かれているが、蚕豆の塩茹でほど美味なるものはそうはない。
莢からはずすと、種実よりもよっぽど布団つきの莢の方が嵩が大きくなるけれど、それも許そう。大切に茹でるぞ。

グリーンピースや蚕豆はいうまでもなく、マメ科の植物の種。
その植物すべての要素を含んでいるのが種、おいしくない訳がない。
グリーンピースごはんを炊いても、蚕豆を塩茹でしても、それぞれ香りは違うけれど、どこかやわらかい赤ちゃんのような甘くやわらかな香りがする。
この季節ならではの香りに包まれる、嗚呼台所の幸せ。

絵・文 : 平野恵理子
1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。

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