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株式会社 大香

きのこ狩り自慢のおじさんに話を聞いたことがある。
とくに松茸に話がおよぶと、鼻の穴がふくらんでいるようだった。

「松茸のとれる場所は、誰にも教えない」
のだそうだ。狩人の掟かな。

「生える木の場所を何か所もおぼえてる」
から、一度行けばくらでもとれるとか。
そんなにとっちゃって大丈夫?

「次の年に生えてくるように、全部はとらないんだ」 ああ、よかった。

朝早起きをして、往復二時間ずつ歩いて山へ行ってくるそうで、元気だなあ。
山から帰ってきてごはんを食べて、それから仕事へ出るって、どれだけ体力があるのだろう。

松茸狩りなんてまさか自分でしたことはないので、こちらは食べる専門。 秋が深まるにつれ、果物と茸の味はググッと深まっていく。

きのこを何種類も取り合わせての網焼きなど、秋の夜長にはこたえられない。
とはいえ、今や茸も人工栽培が発達して、シイタケ、シメジ、マイタケもほぼ一年中食べられるようになった。
ただ松茸だけは、赤松林で自生するのを待つしかないから、まだ季節感があるというわけだ。

松茸が出回るうち、秋に一度は作りたい土瓶蒸し。
こちらでは、「松茸鮓」とやらを食しているようだ。

虚子を待つ松蕈鮓(まつたけすし)や酒二合  正岡子規

松茸の香りも人によりてこそ  高浜虚子     

松茸の香りを楽しむのは日本人だけともいわれる。
きのこ狩り自慢のおじさんも、松茸のくだりは外国の人にしてもウケないかもね。

絵・文 : 平野恵理子
1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。

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